処遇改善加算は、読んで字のごとく、介護職員の処遇を改善する取り組みを行った事業者に、介護報酬を加算する仕組みです。

処遇改善加算は、平成24年度(2012年度)の介護報酬改定において創設され、継続的な介護職員の賃金向上を目指す制度として導入されました。

制度を十分に活用するためには、内容の深い理解が欠かせません。

漫然と加算を職員に支給するだけで、よいのだろうか? 処遇改善加算のメリットは、給与の引き上げだけなのか? 処遇改善加算を算定することで、他にどのような効果があるのか?

制度の理解がすすめば、多くの気づきやヒントが見えてきます。

本ブログでは、処遇改善加算を効果的に活用するために、制度の目的や仕組みについて、「分かりやすく解説」します。ぜひ参考にしてください!

1-1.処遇改善加算の目的

処遇改善加算は、介護職員の賃金を引き上げたり、職場環境を整えたりすることによって、職員の定着率を高め、人手不足を解消し、より質の高い介護サービスを提供することを目的とした制度です。​

現状

介護業界は、現場職員の確保が喫緊の課題・・・

国の対策

介護事業者支援のため、処遇改善加算を支給

賃金の改善、働く環境の改善

処遇の向上を進め、安定した介護職員の確保・定着を狙う

 

現在、介護の現場では、職員の人手不足が大きな問題になっています。今後、利用者数がさらに増加すると予想されており、このままでは介護保険制度の安定した運営にも支障が出かねません。そのため、介護職員の確保は、業界全体にとって非常に重要な課題となっています。

介護保険制度は、少子高齢化が進む日本において、欠かすことのできない社会保障制度です。国もこの課題の解決に向け、「賃金の引き上げ」と「職場環境の改善」を特に重視して取り組んでいます。

また、介護サービス事業者の多くは中小企業であり、経営に余裕がないケースも少なくありません。こうした現状を踏まえ、事業者を支援するために設けられたのが「処遇改善加算」です。

処遇改善加算を人手不足解消の“処方箋”として、積極的に活用しましょう。

1-2.処遇改善加算のしくみ

処遇改善加算は、どのような仕組みになっているのでしょうか。

処遇改善加算は、加算Ⅰから加算Ⅳまでの4区分に分かれ、それぞれ設定されている「加算率」に違いがあります。加算率とは、介護報酬に対して上乗せされる割合を指し、毎月の介護報酬額にこの加算率を乗じて加算額が算定されます。

加算率は、区分がⅠに近づくほど高く設定されており、特に人材確保が困難なサービス(たとえば訪問介護)において、最も高い加算率が適用されています。

例えば訪問介護では、加算Ⅰと加算Ⅳで加算率に約10%の開きがあり(令和7年度現在)、この差が事業収益に大きな影響を与えることになります。

処遇改善加算の加算区分と加算率 ※訪問介護サービスの場合

加算Ⅰ
加算Ⅱ
加算Ⅲ
加算Ⅳ
加算率
※令和7年度
24.5%22.4%18.2%14.5%

一方で、加算率が高い区分を取得するためには、多くの算定要件を満たす必要があります。

具体的には、賃金改善に関する要件だけでなく、キャリアパス制度の整備、昇給・昇格制度の導入、職場環境整備など、多岐にわたる取り組みが求められます。

下表は、加算区分ごとに必要な算定要件の表です。

加算率
算定の要件要件の概要加算Ⅰ加算Ⅱ加算Ⅲ加算Ⅳ
キャリアパス要件Ⅰ職位・職務内容に応じた賃金体系の整備
キャリアパス要件Ⅱ研修の実施、資格取得支援など
キャリアパス要件Ⅲ昇給の仕組みの整備
キャリアパス要件Ⅳ経験・技能のある職員のうち、1人以上は年額440万円以上 ※適用免除あり
キャリアパス要件Ⅴ一定割合以上の介護福祉士等の配置
月額賃金改善要件加算Ⅳ相当の1/2以上を基本給等に充てる
職場環境等要件取組み内容が13個以上
取組み内容が7個以上
取組み内容をHPなどを通じて公表(見える化)する

たとえば、「昇給制度」「キャリアアップの仕組み」「働きやすい職場づくり」など、さまざまな取り組みが求められます。

すべての要件を整えるには、多くの労力と時間が必要です。そのため、行政は、すぐに取り組みやすいように、要件が少ない加算区分も用意しています。

まずは要件の少ない区分からスタートして、少しずつ条件を整え、より高い加算を目指していく――そんな段階的な仕組みになっているのです。

介護事業者のみなさまにとっても、「次は一つ上の加算区分を目指そう」と取り組みを続けることが、人手不足の解消や経営の安定につながることが期待できます。

なお、令和7年度においては、主要な要件である、「キャリアパス要件」や「職場環境等要件」について、猶予する措置が取られました。

まだ、未整備の事業所や開業間近の事業所、小規模の事業所においては、この機会を活かして、来年度に向けた準備を始めましょう。